乳がんは、日本では女性のおよそ11人に1人の割合で罹患すると言われており*、女性にとっては他人事ではない身近な病気のひとつです。
その一方で、有効な治療手段が増えているため、早期に発見して適切な治療を受ければ、高い確率で治すことができます。
乳がんの治療法は、病状に応じて医師と相談していくことになりますが、そのひとつに、手術による乳房切除(全切除または部分切除)があります。
乳房は女性にとって、とても大きな存在です。乳がん手術によって乳房を失うことで、身体のバランスが悪くなったり、さまざまな悩みや不安を抱え、毎日を心から楽しめないなど、「生活の質」に影響を与えることも少なくありません。
「乳房再建手術」を受けてきれいな乳房を取り戻すという選択肢は、治療後の長い人生をいきいきと輝いて過ごしたいとねがう女性たちの強い味方となっています。
ここでは、乳房再建手術の基本をご紹介します。
*国立がん研究センター がん対策情報センター「がん登録・統計」
手術は大きく分けて、自分のからだの組織を移植する方法と、シリコンなどでできた人工物を挿入する方法があります。
背中やおなかの筋肉と脂肪組織、またはおなかの脂肪組織を乳房に移植する方法が一般的です。背中やおなかの組織をとった場所に傷あとが残り、手術時間や入院期間が長くなりますが、自分のからだの組織を使うため、自然なやわらかさや温かみを得られます。
シリコン製の人工乳房(インプラント)を入れる方法で、胸の皮膚と筋肉を拡張するティッシュ・エキスパンダー(皮膚拡張器)と併用するのが一般的です。人工物のため、やや硬く温かみには欠けますが、からだへの負担が少なく、手術時間、入院期間も短くてすみます。
インプラントだけではきれいに再建できない場合や、自家組織だけでは乳房のボリュームが足りない場合は、自家組織とインプラントを併用することもあります。
乳房再建の方法は、手術を行うタイミングによって、乳がん手術と同時に行う「一次再建」と、乳がん手術後に一定の期間をおいて行う「二次再建」に分けられます。
手術の回数は、1回の手術で再建を完了する「一期再建」と、最初にティッシュ・エキスパンダー(皮膚拡張器)を挿入し、胸の皮膚と筋肉を引き伸ばした後に再建を完成させる「二期再建」の2種類があります。
一期再建 | 一次一期再建(乳がん手術と同時に完成) |
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二期再建 | 一次二期再建(エキスパンダー使用後に完成) |
長所 | ・乳房の喪失感がない ・入院期間が短い ・一次二期再建では、エキスパンダー挿入中に再建方法を熟考する時間がある |
短所 | 一次一期再建では、再建方法を熟考する時間がない |
一期再建 | 二次一期再建(1回の手術で完成) |
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二期再建 | 二次二期再建(エキスパンダー使用後に完成) |
長所 | ・乳がんの治療に専念できる ・情報収集と再建方法を熟考する時間がある ・乳がん手術と別の施設で再建を行うこともできる |
短所 | ・手術の回数が多い(少なくとも2回) ・入院手術費用が増える |
自家組織による乳房再建手術は従来から保険適用となっていましたが、技術的に難しく施設も限られていました。
2013年7月より、インプラントを使用する一部の乳房再建手術について健康保険の適用が受けられるようになり、費用負担のハードルが下がりました。
NPO法人 エンパワリング ブレストキャンサーは、乳房再建手術の社会的な認知と正しい理解を広げるために、さまざまな活動を行っています。乳がんを宣告され混乱の中にいる人や、乳房をなくした喪失感をもつ人たちへ、乳房再建に関する情報を広く提供していくことによって、病後の「生活の質」の向上に貢献することを目指しています。
やさしさプラスは、この考えに賛同し、現代女性にとって身近な病気のひとつである乳がんに罹患しても、その後の充実した人生を輝いて生きることをねがって、この活動を支援しています。
NPO法人 エンパワリング ブレストキャンサーのホームページでは、乳房再建手術に関するさらに詳しい情報を掲載しています。